「ピッ」と音を立てながら咲子は本の山から一冊ずつ本を取り、裏表紙のバーコードを読み取っていった。
放課後の図書室は西日が差し込んでパソコンの画面が見にくい時間帯になっていた。
あとはその山を箱にしまうだけ、とちらりと時計を見てほっとしていたところに博が現れた。
野球部キャプテン、エースで4番。下級生にファン多し。でも、ぜんぜん普通のクラスメートだし、と咲子は思っている。
「これ貸してくれよ。いつ来てもないんだよ。」
と、博は「新刊図書案内」のコーナーを指さして言った。
「ああ、『1Q84』?予約しないとダメだと思うよ。」
「じゃあ予約しといてくれる?あとこれ返すわ。」
博は持参した『なぜ阪神は勝てないのか?』をカウンターに差し出した。
「ねぇ、これ一昨日借りたばかりじゃん?もう読んだの?」
「うるせえな、読んだよ。岡田監督が書いたやつだよ。」
ウソばっかり、咲子は本を受け取りながら渋い顔をして見せた。
「江夏って知ってる?」
「知らないよ。昔のやつだろ。」
ほらね、咲子は思った。この本、江夏と岡田が書いたのに。
博は先月あたりからしょっちゅう図書室に現れては読みもしない本を次々借りにくる。
「手、きれいなの?本は汚さないようにに読んでよね。」
ユニフォーム姿の博はあわてて手を見つめ、
「ほら、きれいなもんよ。」
と両手を広げてみせた。
「こっちの本はなんなの?」
カウンターの向こうに積まれた山のような本を覗きながら博は言った。
「ああ、もう大昔の本だから処分するんだって。欲しいのがあったら持ってって。もうデータ消去したから。あとは裏表紙のとこにあるカードみたいなのだけ外せばいいって。」
博は手を伸ばして一番上にあった『世界の戦闘機』をぱらぱらとめくった。
「こんな本借りるやつがいるのかよ。オタクじゃね?やっぱいないや。」
ほら、と博は裏表紙の白紙の貸出カードを出して咲子に見せた。
はらりと何かが落ちた。
「零式戦闘機組立説明書、田宮模型?…なにこれ?」
古く黄ばんだ紙をカウンターから拾って咲子は言った。
「プラモのトリセツだよ。誰かの忘れもんだろ。」
興味なさそうに博は紙を受け取り、本に挟んで咲子に『世界の戦闘機』を返した。
「『1Q84』だっけ?予約頼むな。」
博はちょっと笑って図書室を後にした。
咲子はキーボードを叩いて予約画面を出すと博の名前を書いた。
「予約、当分先だな。」
咲子は、マウスの矢印を博にあわせて、クリックして名前をつまみあげ、沢山並んだ名前の上のほうにそっと割り込ませた。
この話はフィクションです。お目汚し失礼しました。
本年最後のビアマグ日記です。
皆様どうぞ良いお年をお迎えください。
受験生の皆様とそのご家族様、新しい年は飛躍の一年です。
合格を信じております。どうぞお身体お大切になさってください。 ビアマグ拝
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