中学受験は「自立心」のある子が受かるといいます。どんな育て方をすればいいのですか。

中学受験の本などを読むと、精神年齢の高い「自立心」のある子ほど受かると書いてあります。どんなことを意識して育てればいいのでしょう。
  安田先生のアドバイス
「スタンプラリー」で気づいたこと

 8月のある日、人と待ち合わせるために、JRの駅の改札口に立っていました。電車が到着するたびに、大勢の子が改札口を飛び出してきます。
 たいして関心がなかったので、はじめは「何か近くでイベントでもあるのだろう」くらいに漠然と思っていました。が、今しがた出て行った子がまたすぐに改札口を入っていくことに気づきました。待ち合わせしている人間から「少し遅れる」とのメールが入ったので、子どもの後をついて行ってみました。
 「JR東日本ポケモンスタンプラリー」の「スタンプ台」の前に行列ができています。子どもたちは行列めがけて走っていきます。子どものグループが多いのですが、親一人子一人という組み合わせも結構います。親子連れを見ていると、多くが親が前を歩き子が後ろをついていくというパターン。見ていると、スタンプも親が押しています。
 あわただしくスタンプを押し終わると、すぐさま改札口に向かってダッシュ。親子連れは、他人事のような顔をした子を、親がせかしながら行きます。
 私は保護者にお話しするときに、よく「新幹線でない各駅停車の良さ」を例に挙げます。大学受験に向けて無駄のない勉強、先取り学習、早くからの予備校通い・・・・・そうしたことを望んでいるお母さんが多いのですが、中高6年間、人生の中で一番多感な時期だからこそ、無駄なことを、余分なことをして欲しいのです。この6年間に、いろんなことに接し、いろんなものを見、さまざまなことを考え、あれこれ悩んで欲しいのです。長い目で見れば、そうした経験がお子さんの人生を支えます。これからお子さんを待ち受ける人生は、勉強だけの純粋培養で通じるほど甘くありません。
 せっかく降りた駅なのに、駅構内から一歩も出ずにそのまま改札口にUターン。が、駅を出ればそれぞれに違った街の顔が広がっています。こんな絶好の社会勉強の機会はありません。街によって行きかう人の表情が違い、同じ業種の店でもたたずまいが異なります。世の中にはいろんな生きかたがあるということを、お子さんが実感としてつかむまたとないチャンスです。
 「ちょっと街をぶらついて行こうか。どうする?」「あなたはこの街をどんな風に思った?」……。スタンプラリー自体も、「どういう順番で回ることにする?」といった具合に、何かにつけて子どもの意見を聞き、子どもの考えを聞くこと。こうしたことの積み重ねが子どもの中に少しずつ「自立心」を育てるのです。当然スタンプを親が押すことなどはもってのほかです。
 だんだん高学年になると、学校の宿題が疎ましくなったりします。自由研究もどこかの参考本を写させたりして終わり。読書感想文も親が手を貸して要領よくまとめさせる。親としては「受験を乗りきるためだけの便法」と捉えているかもしれません。が、こうした姿勢は子どもの中には遺伝子のように残るものです。
 押す場所を間違えるといけないから、はみ出すといけないからと、親が押してしまうのでなく、失敗してもいいから子どもに押させる。先を急いですぐUターンするのでなく、構内から外に出てみる。常に子どもの考え・意見を聞き、遠回りでも、失敗してもいいという気持ちの余裕を持つことが重要です。
 


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