次世代の子育てと教育を考えるシンポジウム

第1部 特別講演(1)早稲田大学高等学院の男子・中高大一貫教育

本杉 秀穂 先生
早稲田大学高等学院
学院長
本杉 秀穂 先生

 学校法人早稲田大学が設置する学校の一つである早稲田大学高等学院。その教育方針は早稲田大学の建学理念に基づき、校歌も大学と同じく「都の西北」です。卒業生全員が早稲田大学へ進学することが約束されているのが最大の特徴で、まさに〝早稲田人となる〟ための、中高大10年一貫の男子教育を実践しているといえます。
 では、そんな本校の教育を受けると、どんな人材が育つのでしょう。イメージしていただくために、初めに卒業生の姿を紹介したいと思います。本校では年に2回ほど、卒業生を招いて、パネルディスカッションや講演会を開催しています。それに参加してくださった人たちを見てみると、実業界で重責を担っている人、早稲田大学や東大、慶應義塾大学の教員職に就いている人、起業家といった面々が揃います。なかには、世界を舞台に活躍するデザイナーの佐藤オオキ氏や、高等学院在学中に起業した〝まちビジネス事業家〟の木下斉氏のように、特徴的な活動をしている方もおり、活躍の分野は多岐にわたることがわかります。
 このような人材が育つ背景には、本校の前身が1920年創立の旧制高校であることが大きく影響していると思います。〝質を評価し合える仲間〟〝互いを認め合いながらの協働〟〝自治に基づく自由〟といった旧制高校から受け継がれている伝統と校風が、本校にはあるのです。私はこれを〝知的なバンカラさ〟と呼んでいます。
 やりたいことを見つけ、それをやり抜くためには、何度も挑戦する粘り強さが不可欠です。個性を認め合いリスペクトできる友人と、寛容に見守る教員がいるからこそ、失敗を恐れずにチャレンジする精神が育まれます。もちろんアカデミックなサポートも重要です。本校の教員は博士号取得者も多く、生徒の興味や関心に応えるに十分な知識と情熱を兼ね備えています。
 「失敗を恐れずに挑戦する」という教育方針は中学部の学びにも反映されています。例えば、語学教育について。本校では、英語に関連する授業時間は1年生6時間、2・3年生7時間となっています。独自のプログラムは、ディスカッションやプレゼンテーションなどアウトプット型が中心。ネイティブの教員が担当する授業などのアウトプットを行う授業では30人1クラスを2分割する少人数制をとっています。その結果、高校進学時には、受験勉強を経て入学してきた高入生よりも、英会話力は断然高くなります。
 高校では第二外国語(ドイツ語・フランス語・ロシア語・中国語から1言語を選択)が3年間必修となっていますが、中3ではその前段階として、これらの国の文化や言語に触れる授業も設けています。
 このような環境で、近年は生徒たちの留学への関心がとても高まっています。特に今年度からは、年間留学をしても3年間で高校を卒業できる制度を導入したため、留学希望者が急増しました。その点、中学部生は有利です。高校受験に費やす時間を、留学準備に充てられるため、高1の2学期から長期留学に出られるのです。実際、この秋も複数名の生徒が、日本を飛び立ちました。
 自主・自律を養う取り組みとして、中学部では宿泊研修にも力を入れています。中1では2泊3日で奈良に出掛けますが、2日目のグループ別研修は、見学ルートや現地でのマナー、お小遣いなど、全てを生徒たちが話し合って決め、実行に移します。思いどおりにいかないこともあるでしょうが、自分たちで考え、解決するプロセスが重要です。もちろん、安全面の配慮などは教員や旅行業者がサポートしますが、本人たちは「自分たちだけで出来た」と達成感を共有しているようです。
 さらに、3年生の長崎・佐賀研修では、研究テーマも生徒が決定します。事前学習を重ねたうえで、取材先へのアポ取りや、現地での取材に至る全てを自分たちで仕切ります。その成果は学習発表会で、プレゼンテーションやポスターセッションとして発表。主体性や探究心を育むだけでなく、現地の人々とのやり取りによるコミュニケーション力の成長も、大きな成果だと感じています。
 2010年に開校した中学部はまだ1期生が大学2年生で、社会には出ていません。しかし、他校を巻き込んでの社会人との連携プログラムを立ち上げた者、スマートフォン・アプリの開発コンテストで優勝する者など、すでに頭角を現す中学部出身者も見られます。こうした生徒をサポートするため、本校の同窓会では研究計画を公募して、学術奨励金による研究活動支援も行っています。

本杉 秀穂 先生
 最後に、ファイナンシャル・プランナーの頂点ともいえる CFP®(Certified Financial Planner®)資格審査試験に最年少で合格した、中学部出身の生徒(現・高3)をご紹介しましょう。彼がこの資格を目指すきっかけになったのは、中3時に直面した消費増税だったそうです。税制や社会保障の問題の重要性に気づき、政治や経済を分野横断的に理解するためにFP資格の必要性を認識したとのこと。「これを機に、さまざまな社会問題を学問の観点から捉えて、より体系的に学び、社会に貢献したい」との決意を話してくれました。
 生徒の言葉を引用させてもらいますが、これこそが本校の学びの神髄です。これからも、「タフな挑戦者」を育む教育を強化させていきたいと強く感じています。