中学受験と子育てを考えるフォーラム

灘中学校・高等学校 校長 和田 孫博先生

和田 孫博先生1
灘中学校・高等学校
校長
和田 孫博 先生

 生徒が主役であるためには、「自ら学ぶ力」を身につけることが大切だと思います。自分で何もかも決められないようであっては「主役」にはなれないからです。

 「自ら学ぶ力」には三つの要素があり、それは、「知的好奇心」「自主性・自律心」「健全な批判精神」です。まず、一つ目の「知的好奇心」は、子どもなら誰でも持っているもの。それを維持するには、子どもの素朴な質問などをうるさがったりして大人がその芽を摘まないことが大切です。

 二つ目の「自主性・自律心」は、自分で考える習慣を身につけ、自分で納得したルールを必ず守ること。そして、三つ目の「健全な批判精神」は、人の言うことを何でもうのみにしないことです。また、人に対する批判だけではなく、自分の考えたことに対しても、「それで本当に正しいのか」と考える力、反省する力も、この「健全な批判精神」に含まれると思います。

 こうした三つの要素を身につけるため、本校には「精力善用・自他共栄」という校是があります。これは講道館の創始者であり、本校の創設当時に顧問として迎えた嘉納治五郎先生が発案された言葉です。「精力善用」とは、自分の力を最大限に発揮するという意味で、そのためにはまず自分の長所・短所を自覚し、長所を伸ばし、短所を克服することが必要です。一方の「自他共栄」は、今の自分があるのは周りの人々のおかげであり、最大の恩返しは自分がさらに成長することであるという考え方です。さらに、他者の個性も尊重し、命の尊さを学ぶことも大切にします。以上が、「精力善用・自他共栄」の意味するところです。

 生徒に自主性を身に付けさせるため、本校は非常に自由な校風にしています。たとえば制服・制帽はありませんし、明文化された校則もありません。唯一の基準は「灘中生・灘高生らしく」ということです。ですから、いつも校是を心に、それと照らし合わせて、行動基準や自分に合った勉強方法、通学の服装に至るまでを自ら考えなければなりません。

 中等教育で大切なのは、大学合格が最終目的ではないということです。もはや有名大学に合格するだけで将来が約束される時代ではありませんし、大学では中高のように宿題は出ないので、受け身の姿勢では何も学べません。知識量が問われるのは大学入試までなので、中等教育のうちに、自ら課題を探して解決する力、自分の意見をしっかり伝える力、専門教育に耐えうる教養を身に付けることが大切です。

 しかし、中等教育の現場にいて少し気になるのは、親離れ・子離れができていないことです。特に難しいのは子離れのほうで、過保護なままでは子どもの自主性が育たず、進路も自分で決められないようになってしまいます。ですから、こういった場でも親離れ・子離れを勧めています。ただし、お子さんが本当に困ったときは、保護者のもとへ相談に来ますから、そのときは真剣に相談に乗ってあげてください。

灘中学校・高等学校校舎

 本校では、中等教育は人間の基礎をつくる時期だと考え、「知・徳・体」のバランスを大切にしています。月曜から金曜まで授業をしっかり行い、それ以外の自由時間でそれぞれの個性を伸ばす活動をしており、朝から晩まで勉強漬けの管理教育態勢は取りません。各界の第一線で活躍している卒業生が講師を務める「土曜講座」もあり、進路選択の一助となっています。

 また、本校では7~8人の教員がチームをつくり、「担任団」として中1から高3まで一緒に持ち上がるので、生徒の変化に気づきやすく、教師と生徒の絆が強いという特徴があります。さらに、本校では教員の自由も大切にしています。手作り教材をはじめとし、その教科が嫌いな生徒の好奇心をもくすぐるような工夫を、各教員が行っています。

 最後に、今の時代に求められるグローバル人材の育成ついてお話ししたいと思います。グローバル人材に最も必要なのは英語の力だけではなく、異文化コミュニケーション能力です。それを身につけるには、相手のことを理解することと同時に、自国に関する教養を身につけることが大切であると考えます。さらに、前述した本校の校是「精力善用・自他共栄」もグローバル人材の条件であるといえます。

 ちなみに、本校の英語教育では、3人のネイティブ教員が全学年の英語教育をカバーし、高1の希望者を対象に21日間の英国留学も実施しています。また、スタンフォード大学、イェール大学、マサチューセッツ工科大学など海外の大学への進学実績もあります。本日は、ご清聴ありがとうございました。