朝日小学生新聞特別増刊号 WILLナビFRONTIER

慶應義塾普通部 山﨑一郎部長に聞く特色ある教育・学校生活が期待できる私立校の魅力に迫る

中学時代は、将来、社会に貢献するための基礎を作る時期

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── これからの時代を生きる子どもたちは、どのような力を身につけることが必要になるとお考えでしょうか。

山﨑 持続可能性が問われるような大きく激しい変化の時代となり、個人の力を高めることが何より大切になっています。慶應義塾の創立者である福澤諭吉は「個人の独立なくして、一国の独立なし」と説きました。一人ひとりが学び、成長して、社会を担っていく力を備えることによって、はじめて社会は発展することができます。そして、中学段階は、そのための基礎を作る時期だと考えています。


── その基礎とは、具体的にどのような力を指すのでしょうか。

山﨑 福澤諭吉は「全社会の先導者たれ」とも説きました。それを踏まえて、私がよく生徒たちに語るのは、「将来、どんな分野に進んでも、個人の資質を発揮して、必ず社会に貢献するのだという"覚悟"を培いなさい」ということです。"覚悟"というと、ちょっと言葉は強すぎるかもしれませんが、それこそが慶應義塾の精神文化であると、私は確信しています。その精神文化を受け継ごうとする意識を芽生えさせたいのです。
 その基盤として、本校では、まず原理・原則の理解を重点的に図ります。さらに、自分で考える力、それを相手にきちんと伝える表現力などの養成に力を入れています。


── まずは基礎力の養成が重要ということですね。

山﨑 慶應義塾には3つの中学校がありますが、本校は最も歴史が古く、福沢諭吉が存命中に設立した唯一の中学校です。当時、「普通部」という名称にしたのには、格別の思いも込められています。「普通」とはけっして「平凡」を意味するものではなく「あまねく通じることを学ぶ場」を構築したいという理想を持っていました。つまり、幅広い分野の基礎基本を繰り返し学ぶこと、それを通して自ら学び、自ら考える姿勢を育むことは、本校の草創期以来の伝統でもあるのです。

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身近なテーマに生徒が自力で取り組む「労作展」

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──慶應義塾普通部の教育の特色を教えてください。

山﨑 本校の伝統行事になっているのが、1927年にスタートした「労作展」です。生徒一人ひとりが興味を持ったテーマについて調査・研究した成果や、ものづくりに挑戦した作品などを、9月の労作展で展示します。模擬店などが立ち並ぶ他校の文化祭とはまったく異なる、ちょっと旧制学校の香りが感じられる行事になっています。


── 優秀な作品には賞も授与されるのですか。

山﨑 ええ。各教科で優秀作品を選抜し、記念のメダルと賞状を授与しています。メダルは動物をモチーフにした精巧な作りになっており、生徒たちにとっては、これを獲得することが励みになっています。また、友人の斬新な発想に刺激を受けることも多いため、生徒同士で、印象的だった作品を選び、感想を寄せる「みんなの労作展カード」も用意しています。ときには100枚以上のカードが寄せられる作品もあり、それを読むのも生徒の楽しみの1つになっています。


── どのようなテーマに取り組む生徒が多いのですか。

山﨑 福沢諭吉の言葉に「高尚の理は卑近の所にあり」というものがあります。まず自分の身近にあるものについてきちんと考え、扱うことが、高次元の真理に到達するための第一歩という意味です。ですから、生徒たちには、遠大なテーマを選ぶよりも、身近なテーマを見つけて、自分自身の力で解決することが大切だと指導しています。
 また、私たちが、完成した作品以上に重視しているのが、そこに至るまでのプロセスです。そのために、生徒たちは「制作日誌」を作成し、問題にぶつかったときに、どう工夫して乗り越えたのかなどを記録していきます。生徒たちからは「読み返すと、苦労した足跡が思い出され、宝物のようになっている」という声が聞かれます。

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第一線で活躍するOB講師が協力する「目路(めじ)はるか教室」

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──「目路はるか教室」というユニークな特別授業も行われていますね。

山﨑 1998年の普通部100周年を機にスタートした特別授業です。名称は詩人・佐藤春夫氏が作詞した「普通部の歌」の一節「目路ははるけし」に由来しています。年1回、11月の金・土曜日に、様々な分野の第一線で活躍しているOBを招いて実施しています。実業界や法曹界のほか、科学技術者、医師、スポーツなど、できるだけバラエティーに富んだ分野のOBに協力を依頼するようにしています。こうした特別授業が可能なのも、伝統の強みだと思います。


── どれぐらいの講座数があるのですか。

山﨑 例年、学年別の「全体講話」が3講座、生徒20~30名に分かれて行う「コース別授業」が各学年10講座、計30講座ありますから、トータル33名のOBに協力していただいています。以前は、OBを本校に招いて開講する形が中心だったのですが、最近は、7~8割の講座は、OBの職場などを直接訪問して、現場の雰囲気を体感しながら話を聞く形になっています。


── 生徒たちの反応はいかがですか。

山﨑 中学生ですから、まだ将来の進路が明確になっていないケースの方が多いわけですが、「目路はるか教室」を通して、将来の自分の姿がイメージできる意義は大きいと思います。各界の最前線で活躍しているOBの凄味を感じて、「将来、自分もこの特別授業の講師が務められるような人になりたい」と話す生徒も少なくありません。

 

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単なる知識注入ではなく、実験・観察など体験型の授業が充実

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──そのほか、授業の特色を教えてください。

山﨑 どの教科でも、単に知識を注入するのではなく、体験を通して学ぶように工夫しています。たとえば、理科では毎週2時間、実験・観察を取り入れています。しかも、実験・観察の1週間後にはレポートも提出させます。1年生にとってはなかなか大変な作業で、最初のころは徹夜に近い状態になることもあり、ある意味では、本校の生徒にとっての"禊ぎ"になっています。その分、大学の理工学部に入学した後、本校の卒業生はレポートにたいして苦労しないという話もよく聞きます。
 また、近年は、プレゼンテーション力を高める授業も活発化しています。たとえば国語科では、読んだ本を皆の前で説明する「ブックトーク」、社会科でも、グループ学習の成果をパワーポイントなどを駆使して発表する機会を設けています。


── 今後、強化していきたいと構想していらっしゃることはありますか。

山﨑 国際化への対応が1つの課題になると考えています。といっても、中学段階で長期の留学を促進するのは現実的ではありません。幸い、本校の教員は、ここ数年、イギリス、フィンランド、慶應ニューヨーク学院など、積極的に海外で研修を積むケースが増えています。その縁で、今年は19名の生徒がフィンランドで研修を行いました。今後も、教員の海外研修を充実させていきたいと考えています。

 

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中学からは「新たな学び」がスタートすることを自覚してほしい

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──受験生、およびその保護者に向けて、メッセージをお願いします。

山﨑 慶應義塾の一貫校だから、高校入試、大学入試の心配がないといった安易な感覚で入学するのは避けてほしいですね。説明会では、「中学からは新たな学びがスタートする。高校入試、大学入試に向けた勉強とは別の形の厳しい学びの場が待っていることを、十分に自覚して入学してほしい」と伝えるようにしています。
 確かに、本校を卒業しさえすれば、慶應義塾の高等学校に全員が進むことができます。ただし、その分、進級システムはきわめて厳格で、及第点をクリアしないと留年になります。該当者がそれほど多いわけではありませんが、勉強を怠けることは厳禁なのです。もちろん、ほとんどの生徒は十分に自覚して入学しており、自主的に学ぶ意欲が旺盛です。


──教員と生徒、生徒同士の密接な人間関係も慶應義塾普通部の魅力ですね。

山﨑 ええ。本校では、林間学校、海浜学校、スキー学校など、宿泊行事も盛んです。その中で、自然と相手を気づかう心が育まれ、濃密な人間関係が築かれていきます。それも本校の魅力だと考えています。
 また、けっして放任主義ではなく、とくに1年次は24人学級の少人数制を導入し(2・3年次は40人学級)、手厚く指導しています。保護者会も、1年次は年6回、2・3年次は年5回実施しており、希望者には保護者会の後、面談も行っています。男子校ですから、過干渉になることは避けつつも、信頼される学校をめざしたいと考えています。

 

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